\(\)初等力学で学習したように質量\(m\)の物体の運動は始状態(時間の初めと質点の位置)と運動方程式が分かれば求めることができました。
この原理は変分法を用いた最小作用の原理と同値であることを証明することができ、この最小作用の原理から運動方程式を書き換えラグランジュの運動方程式を導くことができます。
本記事では、最小作用の原理が運動方程式と同値であることを証明する方法とラグランジュの運動方程式の導出方法を解説します。
ラグラジアンと作用の定義
ラグラシアン(Lagrangian)
最小作用の原理が何かを理解するためにはラグラジアンと作用の定義をまず知る必要があります。
ラグラシアン(Lagrangian)とは以下の式で表される物理量です。
$$\mathcal{L}=(運動エネルギー)-(位置エネルギー)$$
例えば速度\(v\)、位置エネルギー\(mgh\)で運動している質点のラグラシアン\(\mathcal{L}\)は、
\(\mathcal{L}=\frac{1}{2}mv^2-mgh\)で表されます。
定義からもわかる通り、ラグラシアン\(\mathcal{L}\)は\(\mathcal{L}(速度,位置)\)つまり速度と位置の関数になっています。
作用(action)
そんなラグラシアン\(\mathcal{L}\)を用いて作用\(S\)は以下のように定義されます。
$$S=\int_{t_i}^{t_f} \mathcal{L}dt$$
ここで\(t_i\)は運動の始まる時間、\(t_f\)は運動が終わる時間を表しています。
つまり作用とは始状態から終状態までのラグラシアンの総和に該当するわけです。
最小作用の原理とは
最小作用の原理の内容は以下のようになります。
\(t_i\)から\(t_f\)における系の運動は、作用\(S\)が最小(正確には停留)になるように決定される
つまり、言い換えれば作用の第一変分\(\delta S=0\)となるように運動が決定されるというものが最小作用の原理になるのです。
この最小作用の原理を用いることでラグランジュの運動方程式を導出することができ、またその導出過程から最小作用の原理と運動方程式が同値になることを証明することができます。
その導出方法と証明について次の項で見ていきましょう。
ラグランジュの運動方程式の導出
位置を\(x\)、速さを\(\dot{x}\)としたき、\(x\)から\(x+\epsilon \eta(t)\)に微小変化させた場合の作用の微小変化を考えます。
$$S[x+\epsilon \eta]-S[x]=\int_{t_i}^{t_f} \mathcal{L}(\dot{x}+\epsilon \dot{\eta},x+\epsilon \eta)dt-\int_{t_i}^{t_f} \mathcal{L}(\dot{x},x)dt\cdots①$$
上の式の第一変分\(\delta S=0\)を満たせば最小作用の原理を満たします。ここで、
$$\mathcal{L}(\dot{x}+\epsilon \dot{\eta},x+\epsilon \eta)-\mathcal{L}(\dot{x},x)$$
の第一変分はTaylor展開より
$$\delta \mathcal{L}=\frac{\partial \mathcal{L}(\dot{x},x)}{\partial \dot{x}}\epsilon \dot{\eta}+\frac{\partial \mathcal{L}(\dot{x},x)}{\partial x}\epsilon \eta\cdots②$$
よって、式①と式②から作用の第一変分は以下のように計算できます。
$$\begin{eqnarray} \delta S &=& \delta \int_{t_i}^{t_f}\mathcal{L}dt \\ &=& \epsilon \int_{t_i}^{t_f} \left\{\frac{\partial \mathcal{L}(\dot{x},x)}{\partial \dot{x}} \dot{\eta}+\frac{\partial \mathcal{L}(\dot{x},x)}{\partial x}\eta\right\}dt \end{eqnarray}\cdots③$$
式③の右辺の第一項について、部分積分すると
$$\int_{t_i}^{t_f}\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \dot{x}} \dot{\eta}dt=\left[\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \dot{x}}\eta \right]_{t_i}^{t_f}-\int_{t_i}^{t_f}\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \dot{x}}\right)\eta dt$$
\(t=t_i,t_f\)における端点は固定されているから、このとき\(\eta(t)=0\)が成り立から、
$$\int_{t_i}^{t_f}\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \dot{x}} \dot{\eta}dt=-\int_{t_i}^{t_f}\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \dot{x}}\right)\eta dt\cdots④$$
式④を式③に代入すると、
$$\delta S=\epsilon \int_{t_i}^{t_f} \left\{-\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \dot{x}}\right)+\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial x}\right\}\eta dt$$
ゆえに最小作用の原理\(\delta S=0\)を満たすとき、
$$\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial \dot{x}}\right)-\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial x}=0\cdots⑤$$
が成り立ちます。
この式⑤のことをラグランジュの運動方程式と呼び、以上の内容から最小作用の原理とラグランジュの運動方程式が同値であることがわかります。
ラグラシアン\(\mathcal{L}\)は定義より、位置エネルギーを\(V(x)\)とすると、
$$\mathcal{L}=\frac{1}{2}m{\dot{x}}^2-V(x)$$
これを式⑤に代入すると、
$$m\frac{d^2 x}{dt^2}=-\frac{dV(x)}{dx}$$
となり、これは運動方程式です。
このことからラグランジュの運動方程式と運動方程式は同値であり、そのため以上2つの内容から最小作用の原理と運動方程式が同値でわかります。
このようにして最小作用の原理からラグランジュの運動方程式が導かれ、最小作用の原理と運動方程式が同値であることが示されるのです。
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